うつ病への心理療法 | 認知行動療法

 薬物療法が今ほど進化していなかった時代人々はどのようにうつと向き合ってきたのでしょうか。
 実は軽度・中等度のうつ病は,心理療法でも薬物療法と同じ効果を発揮します。つまり,薬を使わなくても心理療法のみで改善するのです。アメリカ精神医学会ではそのことをはっきりと明言しています。
 このことは考えてみたら,当たり前なのです。人間の歴史とは,戦乱や災害で,多くの悲しみを背負い,それでも生きてきた歴史でもあります。人々は宗教に支えを見いだしたり,地域の人に慰められて辛い体験を乗りこえてきました。
 心理療法が今やその役割を担っていると言っていいでしょう。
 心理療法では,悲しみや辛さを直視して,それに耐えうる心を育てることだと断言出来るでしょう。そうしていくうちに新しい生きがいを見いだしていく作業をするわけです。
 ところで,うつ病の心理療法のスタンダードは,認知行動療法だと言われています。

認知行動療法の問題点

 認知行動療法は,うつ病やうつ状態に伴うネガティブな思考に焦点を当てます。この治療は,思考が感情に影響を与え,それが行動にも影響を与えるという前提があります。そのためネガティブな自動的に起こる思考について,それが本当に妥当なものか考え直すというやり方をとります。
 具体的な例を挙げましょう。「俺はダメ男だ」という繰り返す思考について,セラピストは「あなたは,常にダメなの?そうでなかったこともあったでしょう。それを確かめてみましょう。」と問題提起をします。
 常に駄目な人はこの世に存在しませんよね。この男性はたまたま先週仕事先でうまく取引が出来なかったことだけをピックアップして過剰に責め立てているだけでした。その他には,恋人とご飯を食べたり,仕事でも責任のある部署についており,彼の生活そのものがすべてダメだったということはないのです。
 もう一例,今度は女性にしましょう。
 「私は子供の面倒をろくにみられないダメダメ母」という人がいたとしましょう。
 確かにうつがひどく子供の面倒がみれない面はあるにしても,彼女は朝ご飯のしたくをして家族を学校や職場に送り出しています。朝が苦手でも,夜洗濯をしています。人混みが嫌だから,人があまりいないスーパーの開店時間の直後にお遣いを済ませています。私は彼女に「とても賢いですね」といったら,彼女はビックリしていました。病気なら病気で工夫できる,この病気に対して決して無力ではないという認識を共有した時,その方は随分と安心したようでした。

 認知行動療法では,宿題が出されます。
 ネガティブな自動的に起こる思考と状況についてリストアップし,(人生は生きるに値するということを証明するため)楽しい経験を確認,評価したり,テーマに関した資料を読んだり,予行練習やロールプレイをすることなどからなっています。

 この方法は確かに有効で効果的だということから,うつ病の心理療法のスタンダードにされています。

 しかし,いかなる治療方法でもクライアントに向き不向きはあります。
 一番この治療の問題は,宿題がクライアントの負担になりはしないかということと,ネガティブな自動思考に対して過度な注意を使い,それが逆効果になりはしないかということが危惧されます。つまり,こういう思考してはいけないと思って,却ってネガティブな思考と無駄な戦いをしてしまうと言うことです。

 認知行動療法のこうしたネガティブ思考への戦い方に問題提起をしているのは,弁証法的行動療法というアプローチです。認知行動療法に近い流れの中でも、「起こってくる感情をあるがままに認める」という「マインドフルネス」を趣旨とした瞑想を取り入れたアプローチがグーグル社などに取り入れられ注目を集めています。